【まちなかストーリー】日本酒バー シティライツ 鈴木智之さん 第2回「こよなく愛する熟成タイプの日本酒について」

まちなかで活躍する人にスポットを当てて、そのヒトの街に対する想いや物語を紹介する「マチナカストーリー」。
前回のビアハウス「ティルナノーグ」 の大石さんから紹介いただき、5人目は日本酒バー シティライツの鈴木さん。全3回に分けて、毎週お届けしていきます。

今週は第2回目ということで「こよなく愛する熟成タイプの日本酒について」お話していただきました。

その他のまちなかストーリーの記事はこちら↓の記事からどうぞ
【まちなかストーリー】登場人物とインタビュー全記事まとめ

人物紹介


鈴木智之さん
前職は飲食店に5年ほど勤務、後に独立開業。ジャズを聞きながら濃厚芳醇・熟成タイプの日本酒を楽しめるお店、シティライツを2015年9月にオープン。キャラの立った日本酒がメインで王道の銘柄は置かず、全て自らの厳選品を用意。コアなファンが多く、落ち着いた店内の雰囲気は女性客も足を運びやすい。ちなみに、高校時代は吹奏楽部。

お店のウェブサイト:日本酒バー シティーライツ | Facebookページ

第2回、こよなく愛する熟成タイプの日本酒について

ーー今、鈴木さんが推している日本酒はなんですか?

最近、推しているのが愛知県の「ちょうちん」という長いに珍しいで「長珍」と書くお酒です。だいたい11月頃に発売されて、熟成の5055というやつがあります。

あとは、香川県の悦凱陣(よろこびがいじん)というお酒や、岡山の克正(かつまさ)とかですね。

これらのお酒はこのあたりでも買えますが、取り扱っている酒屋さんを探して、予約したり取り寄せたりしないと買えないです。 日本酒の販売は「特約店制度」というのがあって、その特約店の酒屋さんに卸すのがほとんどなんです。なので、一般的なスーパーや量販店では買えません。

よく、酒蔵さんから直接買っているかって言われるんですけど、特約店の酒屋さんを通して入荷をしています。大手の居酒屋チェーンだと特約店だったりすることもあり得るかもしれないですけど、基本的には必ず酒屋さんを通して、日本酒を入荷します。

 

ーー新たな美味しい日本酒を探すときは、全国を周ったりするんですか?

実はあんまりそういうのはしないです。正直に話すと、日本酒の場合は、結局のところ地方では売れないから東京とか都心に販路を開拓して出しているので、地方に行って新しいお酒を発見するっていうのはすごく難しい思っています。

なので、逆に都心にいたほうが集まってきます。東京、名古屋、大阪とかの日本酒バーに行って、知らないお酒を飲んでみるとか、気になるお酒を取り寄せて飲んでみるとかのほうがうまいお酒を探す方法としては、圧倒的に多いです。

あとは、僕が好きな日本酒は小規模な蔵元さんなことが多いので、直接行っても結局今年分の在庫がもうなかったり、見学も簡単にできるものではないですからね。まずは、取り寄せられるなら取り寄せてしまいます。

 

ーー今日の日本酒のメニューでおすすめはありますか?


飲みやすいお酒とおすすめいただいた「風の森」、ほんのり甘い香りでまろやかな味わい。

今日のメニューの中では、飲みやすいお酒だと、奈良の「風の森」ですね。

強めのお酒だと「小左衛門」か「隆」このあたりがいいと思います。 いわゆる、淡麗辛口タイプのお酒はうちは置かないので。

毎週メニューが変わっていると思うので、おすすめをこうやって聞いてもらえると嬉しいです。


強めのお酒としておすすめ頂いた「隆」。穏やかな香りに主張のある味、余韻がまたおいしい。

 

ーー日本酒を好きになった最初の1杯のエピソードを聞きたいです

僕は正直に言うと、最初は獺祭だったんですよ。いわゆる甘みがあって香りの良い物やフルティーなタイプですよね。 日本酒ってすごいなって思って飲み始めたんですけど、すぐに飽きがきてしまって・・・その後も日本酒を飲んでいく中で、偶然出会ったのが”悦凱陣”っていう香川県のお酒ですね。

おそらくそこのお店で飲んだ悦凱陣は、開けてからしばらく時間が経っていたと思うんですよ。 それまでは、フルーティーなタイプの日本酒って空けたらすぐに飲まなきゃいけない。1升瓶でもせいぜい1週間、2週間はちょっとギリギリかな。出来ることなら2~3日でって感じです。

でもこの悦凱陣は、今までの日本酒の常識とは全然違って、むしろ空けてから1~2週間でやっと旨味が出てくるんですよ。味がのってくる。

あと、蔵でだいたい1年間くらい寝かせてから出荷してるんですよ。 作ってから、新酒でバンバンだしてるんじゃなくて、1年間蔵で寝かせてから出荷。なので、今出てるのは去年作ったものですね。 1升便でも3分の1過ぎたところから、ぐっと旨くなる。そんなお酒を知って、それがすごく面白かったんですよね。 それで熟成酒の面白さを知って、そこからですね、日本酒は、はい。

なんでもかんでも、フレッシュなうちにとか開けたらすぐにという常識とは、完全に別世界の話で。 そこでやっと気づいて、熟成酒、古酒寝かせたらどうなるかとか。そうなるといろいろ楽しくなりましたね。

 

ーーなるほど、それでお店のお酒のラインナップも癖の強いものが揃っているんですね

そうですね。 もちろんそういうのも好まない人もいて、新酒じゃないととかフレッシュなうちにとか言われるんですが、うちはあえてそういう方針ではなく、「ちゃんと熟成をさせたお酒を」と思ってやっています。

そういうお酒となってくると、やっぱりお刺身、お醤油合わないんですよ。 逆にナッツとかチーズとか絶対そっちの方が合ってくる。 ちなみに、生酒の熟成酒なんかは、チョコレートのようなカカオの香りがすごく出るんですよ。

すると、食事をメインで考えたお酒なのか、お酒をメインで考えたつまみなのかで全然変わってくるのでうちはあくまでお酒が主役。 っていうところですよね、このお店は熟成した日本酒を出してそれをやりたかったんです。

食中酒もいいんですけど、主役となるポテンシャルを持つお酒をできるだけ探すようにはしていますね。お酒だけでも飲める、つまみと一緒でもおいしいっていうのが日本酒の面白いところじゃないかなと僕は思います。

ーーオープンの頃から熟成した日本酒メインのスタイルでやっていますよね

そうなんです、なので最初の頃オープンしてしばらくはやっぱり色々言われて。 「淡麗辛口のお酒ないの」とか、「磯自慢置いてないじゃないか」とか、「日本酒バーなのに10種類しかない」とか、「日本酒とパンやチーズが合うわけない」とか。それはもういろいろ、さんざんと!


日本酒と一緒に出てくる「パン」。熟成酒にマッチして美味しい。

でも、それはよそでやっていただければいいことなので、うちはあくまでしっかりした、コク、旨味、酸の効いてるお酒がメイン。酸って酸っぱいわけじゃなくて、いろんな旨味成分としての酸がしっかり効いていること。そして封を切ってから1,2週間くらいで味がノってくるもの。もちろん劣化じゃなくてきちんと角が取れて味が乗ってくるものを、美味しく飲んでもらいたいというところですね。

なので、うちはキャラがしっかり立っているお酒が良いですね。 でも、なんでもかんでも面白ければいいって訳じゃないんですよ。一応ちゃんと自分が飲んでみて、良しと思うものじゃなければ置きません。 ただキャラが立ってるってだけで普通に美味しくないものってこともありますし、キャラ立たせすぎて逆に美味しくなくなったりすることもありますよ。

そのため、かなりこまめにテイスティングして味は確認します。 ちょっとこいつダメかもって思っても、1週間位したら急に良くなるやつもいるし、最初の封切りのときにああいいなと思っても、一気にがくんと落ちるやつもあります。後者は申し訳ないけどうちの店では当然出せないので、自分で消費するお酒に回します。

ーー味が落ちるものばかりだと思っていました。良くなるものもあるんですね。

それは好みですけどね。その変化を良いものと捉えるかどうかです。

所詮、劣化は劣化ですから、それをただ劣化と捉えるか、熟成と捉えるかの違いだと思うので、僕は良い変化が起きたものは「熟成」と捉える方ですね。 こういう味の変化を楽しむことも一つの楽しみ方だと思っています。

一辺倒な見方で、フレッシュにフルーティーで水みたいなっていうだけがお酒じゃないですよ。お酒単体の味やコク、旨味を楽しむことができますよ。ということです。

なので、生酒って新酒ってイメージが有ると思うんですけど、生酒を寝かしたものもいろいろストックしています。1番古いモノだと生酒で18年寝かせたものがあって、それはいつかタイミングを見て空けたいなと思っていますね。

生酒でも5年、10年置いたものはなかなか出てくるものじゃないので、酒屋さんを色々まわって分けてもらったりとか、自分で飲んでこれは絶対寝かせたらうまくなるぞと思ったら自宅の冷凍庫でストックしていく感じなので、ものすごく時間はかかっっちゃうんですが、ゆくゆくはお店でそういうものも出していきたいなと思っています。

ーーいやあ、奥が深いですね。

 

—–

今週はここまで!
シティライツ鈴木さんの第3回は、浜松のまちなかについて語っていただきました!
11/25金曜日に公開予定です。お楽しみに!