「まちのしごと、まちのひと。」Vol.3 齊藤賢吾さん

浜松まちなかで活動する人・働く人にスポットを当てたコーナー「まちのしごと、まちのひと。」

そのヒトの想いや活動など「ヒト」にフォーカスをしたストーリーを紹介していきます。

第3回目の今回は、

鍛治町にある刃物専門店「くろかねや」の店主「齊藤賢吾さん」

にお話しをお伺いしてきました。

 

自己紹介をお願いします!

浜松市中央区鍛冶町の刃物専門店『くろかねや』の3代目店主の齊藤賢吾です。専門学校を卒業後に3年間東京の金物屋で修行をしました。で、23歳の時に浜松に戻ってきてお店に入りました。30歳の時に父が他界し、3代目を引き継ぎました。突然の事だったので、どうやってお店をやっていこうか最初は頭が真っ白になりましたけど、自分がお店を引っ張っていかなきゃ!と奮い立って今日まで頑張ってきました。

どんなお店なのか教えてください。

刃物専門店として1940年に創業しました。祖父の代から始めて今年で85年になります。日本各地の職人・メーカーとコラボして作り出したオリジナルの三徳包丁や柳刃、出刃包丁、牛刀、ペティナイフ等を販売しております。また砥石や研ぎ桶などのメンテナンス用品をはじめ、国内外から厳選された調理道具等も販売しております。その他、刃物のメンテナンス(包丁研ぎ等)や出張の研ぎ講座もお受けしています。

ーー左)店内の様子 中央左)人気の包丁シリーズ 中央右)研ぎ石も揃っています。右)こちらも人気商品「おひつ」

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お店の歴史を教えてください。

1940年に私の祖父がこの鍛治町の地で、刃物の専門店として開業しました。一番最初の店舗は松菱百貨店のすぐ横にありました。その後時代は戦争に移り、浜松も皆さんご存じの通り焼け野原になってしまいました。当時の店舗も焼けてなくなってしまいましたが、戦後にいわゆる金物屋として同じ場所で再スタートしました。で昭和49年だったかな、松菱百貨店の中に共同ビルという形で店舗が移って営業していた時代もありました。現在の場所には2015年に移転しました。先ほどの質問でも答えましたが、祖父の代から今年で85周年になります。

ーー左)戦前のお店と先代のお写真 中)先代のお写真が今でもお店を見守ってくれていると話す齊藤さん 右)歴史ある写真の数々を是非お店でご覧ください

お店の名前の由来はありますか?

実は、うちの祖父が山梨の生まれでして。今はもうないですけど、山梨にくろかねやっていう刃物屋があったんですよ。で、そこに勤めてたんですね。その「のれん分け」で、でも同じ地域でやるのもね。ってことで、富士川を下って静岡に来て、うちの祖父は浜松で開業したという流れです。ちなみに祖父には兄弟がいるんですけど、お兄さんは静岡市で、弟さんは長野県の岡谷市で同じくのれん分けで開業しています。

ーーくろかねや80周年記念のエコバックも店頭で販売されています

普段の1日はどんな感じですか?

10時が開店時間なので、それまでは開店準備をしています。主に店内外のお掃除をしたり、品物の補充や整頓をしたりですね。で、10時にお店をオープンしてからは主に、接客をしたり包丁研ぎをしたりですね。あとは時々買い物に出たりとか。出張研ぎ講座やカルチャースクールの講師として刃物の研ぎ方も教えているので講師として教えにいったりだとか。だから普段は主に接客か刃物を研いでいることが多いですね。

どんなお客様がお越しになるんですか?

当店にご来店される方で多いのは、地元の奥様方と料理人の方が多いです。あとは意外に思われるかもしれませんが、釣り人もすごく多いんですよ。土日になると男性のお客さんがすーっと来店されて。で、そこの包丁の棚を見て「最近釣り始めたんですけど、おすすめの包丁ありますか?」って聞かれるんです。浜松は近くに天龍川があって、伊良湖岬があって、海も川も多いでしょ。陸でね釣りをやる人もいるし、船で沖まで行かれる方だと、すごく大きな魚を釣るんですよ。そうすると今度は今ある包丁じゃ物足りなくなるんですよね。現状の包丁だと大きさが足りなかったりとかね。なので魚をさばく包丁は、この5年、10年ぐらいの間すごく売れるようになりました。当店の品揃えも、魚をさばく用の包丁は前は1シリーズ~3シリーズぐらいしか取り揃えていなかったんですが、現在は6シリーズぐらい用意をしております。

 

後は最近の傾向として、「包丁研ぎを自分でやりたい!」っていう人がいっぱいいるんですよ。出張講座や地域のカルチャースクールの講師としても「刃物研ぎ講座」をやっているのですが、すごく人気がありますし。昔(平成の大不況時代)は、980円ぐらいの包丁を買って使い捨てってのが主流だったんですが、近年はこんなに売れるのか!っていうぐらい砥石が売れるんですよ。当店はネットショップもやっているのですが、専用の研ぎ桶や研ぎ石が飛ぶように売れるんです、これが。皆さん「包丁を大切に」「良いモノを買って、大切に長く使おう」という方が増えたのかなと思います。

お店をやっていて嬉しかったエピソードはありますか?

嬉しかった事ですか!うち85年間お店をやっているじゃないですか。そうすると、親子でうちの包丁を使ってくださるお客様も割りといたりするんです。で、この間あったのが3世代で使ってくれているお客様がいまして。まずおばあさん世代の方が昔買ってくれたと。で、この包丁がすごくよく切れるからって、娘さんが結婚する時にお祝いに買い与えたよと。娘さんは今でも大切に使ってくれていて、時々研ぎに持って来てくれたりしてね。で、そこまではよくあったんだけど、最近になって更にその子供を連れてきてくれて。なんと親子3代でうちの包丁を使ってくれてるんだって。めちゃくちゃ嬉しいですよね。おばあさんが持ってくる包丁は何度も研いでいるから細くなっちゃってるし、その娘さんが持ってくる包丁はもうちょっと幅広なんだけど、使い込んでるし。見るとうちの刻印が入ってるからすぐにわかるんですよね。この時の刻印は、僕のおじいさんが刻印したんだってね。あ~家族皆で大切に使ってくれてるんだなと思うとね、それはもう嬉しいですね。

Youtubeでの発信にも力をいれられているとか…?

実は今年店舗改修をしたんですが、その際にYoutubeの撮影部屋「KURO BASE」を店舗内に作ったんですよ。部屋内には砥石や研ぎ桶、その他修理に使う道具なんかの置き場も作ってね。そこで刃物のメンテナンスをしたりYoutubeの撮影や編集をしたりなんかもしています。おかげさまでYoutubeチャンネルの登録者数も1200人を超えて、日本国内はもちろん、海外の方、特にアメリカとか、ヨーロッパ・スイス・フランスの方などにも多くご視聴頂いています。Youtubeでの発信をしているのは「日本の独特な文化」をもっと広めていきたいって思いが根底にあって。そのおかげか海外からのお客様もちらほらご来店頂いています。以前も海外にお住まいの日本人の方が帰省された際に、僕のYoutubeを見てくれたご主人から、「このyoutuberが使ってるこの包丁と、この道具を買ってきてくれ」って頼まれたの。と来店されて購入してくれたりもしました。

 

ーー只々見ているだけでも面白い”刃物研ぎ”の動画や、実際包丁を取扱う際の注意点も学べます‼齊藤さんのYoutubeチャンネル「くろかねや研ぎ陣浜松」へは☝の画像から飛べます。

今後の展望はありますか?

包丁の販売とメンテナンス用品の売り上げが今結構伸びてて、逆に言うとキッチン用品などは少し縮小傾向にあるんですね。なので80周年の時に什器(刃物類)を棚2つ分増やしたんです。90周年・95周年に向けて今後は更に包丁などの什器を拡充して、もっと刃物の販売に力を入れていきたいなと思っていますね。お店に飾っている写真をね、暇になると眺めるんですよ。そうすると、「原点に立ち返えりなさい」っておじいさんに言われている気がして。高度成長期っていうんですか、そういう時は逆にお鍋とかキッチン用品など品数豊富な事が求められていた気がしますけど。そういう店も周りに少なかったし。でも今お客様に求められてるのは「刃物の販売」と「困った時のアフターフォロー」なんだなと思ったりして。多分おじいさんはそうやってやってたんだろうなって。なので今後はそちらに力をいれていければと思っています。

最後にこの記事を読んでくれている方にメッセージなどあれば教えてください

包丁ってね、家庭で1本や2本は絶対あるじゃないですか。で、料理ってまず初めに切ることから始まって、次に炒めたりするんですよ。だからまず切らなきゃ料理は始まらない。切るっていろんな意味があって、縁を切るという言葉もあってあんまり縁起が良くないって言う人もいるけれど僕は、結婚式も「ケーキ入刀」だし、式典でも「テープカット」をするでしょ。だから「切る」って事は「未来を切り開く事」っていう意味で僕らは捉えてて。包丁や刃物、はさみもそうですけど、刃物には邪気などの悪を断ち切る力があると思います。うん。だから、贈り物でも包丁を送る方すごい増えていますし。是非包丁を使って料理をしてもらって、そこから笑顔が生まれたり、健康が生まれたり、色々広がっていくと思うので、『是非包丁を大切に扱っていただきたい』と思います。

 

ーー齊藤さん、貴重なお話を有難うございました。

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