「まちのしごと、まちのひと。」Vol.7 千葉恭広さん
- まちなかストーリー
- 2025.09.23
浜松まちなかで活動する人・働く人にスポットを当てたコーナー「まちのしごと、まちのひと。」
そのヒトの想いや活動など「ヒト」にフォーカスをしたストーリーを紹介していきます。
第7回目は、
「octagon brewing」の 千葉恭広さん
にお話しをお伺いしてきました。
目次
自己紹介をお願いします!
大阪府出身、千葉恭広と申します。高校卒業後、大阪にある工業系の大学に進学し、半導体の材料に関する勉強をしておりました。卒業後ドイツの「ミュンヘン工科大学 ビール醸造工学部」へ進学し、ビールについて学びました。その後帰国し東京の小さなブリューパブの裏方として、原料の仕入れや税務署とのやり取り、ビールを作る方々のフォローアップをしておりました。現在は静岡県浜松市にあります「octagon brewing」というブリューパブでビールの醸造をして7年程たちます。
ーー1度ビールについて語りだしたら止まりません!!ビールに対する情熱と知識はピカイチ⚡な千葉さん。
ーーoctagon brewingでは、千葉さんの想いのこもった最高のビールを最高の状態で楽しむことが出来ます🍺Instagramと公式サイトは各画像をクリック👆
「ビールの醸造」について詳しく教えてください。
まず材料から説明しますね。一般的なビールで使われる主原料は大きく分けると4つあります。重量が多い方から言うと、水、麦芽、ホップ、酵母の4種類です。そこに副原料を足す場合もあります。一般的に多く使われるのはフルーツですが、珍しい所で言うと「木」や「牡蠣の殻」などを使用した事もありますし、例えばパン屋さんが廃棄せざるを得ないパンを使って作るアップサイクルなビールもあるんですよ。
・麦芽ー大麦を発芽させたものを乾燥焙煎をしたもの。ビールの味風味に影響する原料。
・ホップービールの苦みであったり、香りといったキーになる部分の原料。
・酵母ー発酵の役割を果たし、ビールの風味を決定づけてくれる原料。
続いて醸造の工程です。まずは「仕込み」と呼ばれる水と麦芽を使って、ビールの素と呼ばれる「麦汁」を作る作業です。麦芽を水と一緒に混ぜて煮こみ、麦芽のお粥を作るようなイメージですね。次に「濾過」をします。麦芽には殻がついているので、出来た麦汁から固形物を取り除く為に漉す(こす)作業をします。そこにビール特有の香りだったり、味わい、苦みっていうのをつけるために、ホップを入れます。入れただけだと溶けにくいんで煮込みます。煮込むことによって苦味成分がたっぷり出てくれるんですよ。煮沸後は麦汁を急速に冷やすという作業になります。これは雑菌の繁殖を防いだり、後の作業で入れる酵母が働きやすい温度にするために行います。続いて「発酵」という工程になります。冷やした麦汁に酵母を投入し発酵させます。すると酵母が麦汁の糖分を分解し、アルコールと炭酸ガスを作って「ビール」になります。そして次は「熟成」させます。出来たばかりのビールだと雑味が残っていたり、ちょっと飲みにくかったりします。香りも本来ビールにはないような香りがあったり、バターっぽい部分があったりします。それはそれで好きな人もいらっしゃるんですが、世間一般的に見ると好まれない状態です。また発酵終わりの段階だと酵母も浮いているし、濁っているんですよ。なので熟成する事によって、味をきちんと整えるのと見た目もクリアにしていきます。最後に充填と呼ばれるボトルや缶に詰める作業になります。
と一般的な醸造の流れはこんな感じですが、OEMなどで新規のビールを作る場合は、先方が望んでいる完成品のイメージがどういったものなのかをヒヤリングして、副原料を入れるタイミングを調整します。例えば果物のピールなどを使う時は麦汁を作るタイミングで使ったりもしますし、ホップと一緒に煮込む時の最後の冷やす直前で投入する場合もあります。風味や香りをどんな塩梅で残したいかによって変えていますね。
ーー左・中)熟成されたビールの出来映えを確かめる千葉さん。右)仕込みに使われるタンク。こちらのマシンでビールの素となる麦汁が作られます。
ビールを作る中で大変だった事はありますか?
最初にどのタイミングでどれぐらいの量を入れるかというレシピを考案するんですね。例えば果物を使う場合、素材によって少しで良い素材、逆に沢山入れないと香りが出にくい素材とあります。スイカが特にそうなんですけど、ちょっと入れただけだと全く風味出ないので、そういった点で量を考える。で逆にレモンなんかだと、香りはともかく酸味はすごく出やすいので例えば300リットル作るとして、そのうち3リットルも入れたら酸味はしっかり出てきます。どのぐらい入れて、どのぐらいの風味を出したいかによっても変わりますしね。なのでOEMのご依頼をいただいて、完成品の希望のイメージに合った副原料の投入タイミングや量を試行錯誤することですかね。
あとは実務的なところで下処理の作業も地味に大変です。僕は依頼者様に「出来れば果汁かピールで副原料をください。」というのをお願いしているのですが、以前あったのが果実のまま頂いたことがあって。100キロ分の桃をひたすら皮をむいて、種をとって、切って。という作業は辛かったですね。
ーー温度や湿度その時々の素材の状態によってもビールの完成度が変わってくるそうです。ビール作りも一筋縄ではいかないものという事が良く分かりました。
ビール作りをされる中で、嬉しい時や楽しさを感じるのはどんな時ですか?
きちんと製品としてビールが出来上がって、それを皆さんに飲んでいただき「美味しい」と言ってもらえる事が1番嬉しいですね。その嬉しさがあるので、作る工程は多少過酷でも頑張れるかなと。ビール作りする人って、多分どの方にとってもそこが生きがいだったりやりがいだったりするのではないかなと思いますね。
もう1つは「こうしてみたらどうなるんだろう」という知的好奇心をくすぐられる時ですね。麦芽・ホップ・酵母とそれぞれの種類も多様にあり、組み合わせも千差万別です。またどの素材をどのくらい入れるかで味や香りも変わってきます。更に温度や入れるタイミングなども考慮すると、もう何十万と無限大に組み合わせがあるんです。「次はこの品種を使ってみたらどういう香りになるかな?」「どういう味になるかな?」「同じ品種だけど、今回こうしてみたらどうなるんだろう?」と試してみるのは「好奇心を満たす」という点でも「より美味しいものを作るぞ!」という目的に向かって動くという点でも、やりがいを感じています。
左)「ジューシーフルーツ」アメリカ・ポートランドのCulmination Brewingとのコラボビール! 地元浜松産のみかんを使ったフルーティな一杯。右)「ジャスミンエール」ジャスミンが豊かに香り、モルトの程よい甘さとのバランスが絶妙。 ビールが苦手な方にも飲んでいただける仕上がり。千葉さんの作るオリジナルビールは、店頭ではもちろん公式オンラインショップからお取り寄せも可能です!!
今後の目標はありますか?
「ビールを作る」という点にフォーカスした場合、やってみたい事が2つあります。1つ目は、日本酒とビールの「あいのこ」というんですかね、日本酒醸造に使われる麹を使用したクラフトビールを醸造してみたいです。先ほどビールの醸造について、麦芽、ホップ、酵母を使い、麦芽を発酵させてビールを作るとお話をしたのですが、日本酒はお米と麹(米麹)を使うんですね。麹の酵素によって米のデンプンを糖分(ぶどう糖)に変えて、酵母の力で「アルコール発酵」を行うという工程で作られているんです。なので素材を大麦と麹(米麹)を使いビールを作ってみたいなと。麦芽を使わなくても、麹が酵素を持っているので、大麦のデンプンを糖分に変えてビール(アルコール)が作れるんです。麹を使うというのは、すごく日本っぽいなと思っていて。西洋から入ってきたビールというものに対して、日本特有の素材を使って、アプローチするという挑戦は長年の夢でもあります。
もう1つは、アルコール度数の高いビールを作る事ですね。ドイツで伝統的に作られてるビールの種類でアイスボックというアルコール度数の高いビールがあるんですが、それはやってみたいかなと。味に深みが増し、飲みごたえも増します。ビールはアルコール度数が低いお酒なんですね。通常高くても10%くらいが限度なんです。(蒸留すればもちろん上がりますが、そうするとウイスキーになってしまうので、蒸留せずに作る場合の話です。)ではどのようにアルコール度数を高めるかというと、ビールが出来た後に濃縮するんですね。方法はというと、水分を脱水してアルコールだけを残します。煮込んでしまうとアルコールは飛んでしまうので、凍らせます。アルコールよりも水の方が融点が高いので、水だけを凍らして氷を取り除いていきアルコール濃度を高くします。原材料費が高くなってしまいますし、光熱費、手間賃などを考えると販売価格が高くなってしまうのが考え処なのですが、いつか挑戦してみたいと思っております。
最後にこの記事を読んでくれている方にメッセージなどあれば教えてください
私達octagon brewingも実行委員に入り運営しているイベント『浜松クラフトビールフェス』が今年も開催されます。2018年から毎年開催していて、昨年までは8月末~9月にかけての時期に開催をしておりましたが、今年はちょっと涼しい時期の11月に開催する事となりました。
気温も涼しくなってきてより快適に飲めると思いますし、熱中症などのリスクも抑えられていろんな方に来ていただきやすいのではないかと思っております。
来ていただく醸造所さんは僕がお声掛けをしているのですが、良くやったと自分を褒めたいくらい本当に素敵なラインナップのお店が揃っております。南は沖縄から北は宮城気仙沼まで全国20店舗が揃います。定番の商品やゴクゴク飲みやすいクラフトビールに加え、今年は秋に開催ということもあって味わい深く風味がよりしっかりしている種類のビールも並ぶのではないかなと思います。
11/1・2の2日間は是非最高のビールを味わいに『浜松市ギャラリーモールソラモ』にお越しくださいね!!
ーー浜松クラフトビールフェスの詳細は↑の公式サイトよりご確認くださいね。千葉さん、貴重なお話を有難うございました。